第1回:残業削減の目的は働き方改革~コープデリバリー~(2018年7月25日号)

■浮いた残業代を社員に還元

生活協同組合ユーコープの宅配「おうちCO―OP」の商品仕分けを請け負うコープデリバリー(本社=神奈川県座間市)は、3年以内に残業をゼロにする目標を掲げ、働き方改革を実践するプロジェクト「暮らしを豊かにする集い(K・Y・Tプロジェクト)」を昨年4月に立ち上げた。

同社では、慢性的な人材の採用難や1人当たり業務量の増大、残業の常態化などの課題を抱えている。「残業削減がクローズアップされているが、残業ゼロが目的ではない。『働き方改革』を実践し、原資を還元することで、従業員の生活と健康を守り、安定した働きがいのある職場をつくること、仕事と家庭の両方を大事にして相乗効果を上げ、一人一人が幸せになることをねらいとしている」(花村省吾・コープデリバリー代表取締役社長)という。 

そのための手段の一つとして、3年以内に残業をゼロにすることや、必要な時に有給休暇を取得できる環境づくり(最低年1回5日以上の長期休暇を取得)という目標を掲げるとともに、残業時間削減で節約できた残業代は社員に還元することを事前に宣言した。 

「残業代は実質的には生活給になっているので、これを減らしたら社員のモチベーションが落ち、抵抗勢力が増えると考えた。それでは前に進まない。みんなで一丸となって取り組むには最初から宣言することが必要だった。一方で、社員を信じていた。これまでの活動を通して、社員のモラールが向上してきたので任せても大丈夫だと思った」(花村社長)。 

同プロジェクトは8人の社員で結成された。メンバーは人材育成の一環として、次世代を担う人材を各事業所から選抜した。 議論を重ね、残業発生の原因が仕事の属人化やコミュニケーション不足などにあると特定したうえで、社員のすべての作業の棚卸しを行い、作業のムリ、ムダ、ムラの見える化やマニュアル化、多能工化などを進めた。 

また、毎日の作業スケジュールを明確にし、社員同士で共有するため、各人の1日の作業フローをホワイトボードに一覧表形式にして貼り出す「作業進捗ボード」を活用している。1日に3回、ボードの前でミーティングを行い、作業の進捗を確認し、仕事の割り振りの変更などを行っている。すき間時間に完了できそうな軽作業で他者の助けが必要なものについては、小さなカードに作業内容を書き出して、それをボードに貼り、他部門からの応援を要請できる仕組みも取り入れた。所定作業時間をマグネットの作業札に記入することで、さらに時間を意識して各人が効率的に作業を行うようになった。 

これらの取り組みの結果、昨年度の社員の1人当たりの平均残業時間は月16.7時間から7.7時間に減少した。年間で約580万円の残業代の削減となり、1人当たり17万5000円を社員に還元した。連続5日間の休暇取得については、昨年度は社員の6割が取得した。 今年度については、昨年度の実績と同程度の生産性向上が見込まれるとの判断のもと、ベースアップの月額2500円と残業削減前払い手当の月額7000円の合計月額9500円の賃上げが実現された。さらに、今年の夏季賞与では、第1四半期の残業削減分として、社員1人当たり4万円程度を還元した。 

今後はパートリーダーの働き方改革、残業削減に取り組む。パートリーダーの業務の中で最も負荷がかかっているパートの配置表の作成業務を軽減させるため、AIを使って最適な配置を行うソフトウエアを下半期から導入する予定だ。

■最も大きな成果は社員の成長

(花村省吾・コープデリバリー 代表取締役社長の話)

一連の取り組みの背景には、現場力の向上、現場力の発揮をどう図っていくかという問題意識があった。 

当社には約40人の社員と約900人のパートがいるが、現場のことは現場で働いているパートさんたちが一番よくわかっている。その現場力を引き出そうと、4年前から始めたのが「G・D・Pプロジェクト(現場力ダントツ化プロジェクト)」だ。パートさんをまとめるパートリーダーを巻き込んで、現場で起こる様々な問題を解決しながら現場の力を引き出していく取り組みを毎年、継続的に行っている。 

その後、自社の独自の経営理念を策定しようというプロジェクトを立ち上げた。自分たちの会社を自分たちでデザインしようと呼びかけ、次世代を担う社員が中心となって理念をつくった。 

こうした活動によって、会社に対する帰属意識や会社を愛する気持ちが表れてくるようになった。「仕事とは」「会社とは」を語る社員が増えてきた。「K・Y・Tプロジェクト」の成果が上がった背景には、これまで行ってきた継続的な改善活動や、経営理念の策定の活動がベースにある。 

一連の取り組みの最も大きな成果は、社員の成長だと思っている。その副産物として利益がついてきている。ここ2~3年のコープデリバリーの取り組みは、ユーコープのトップからも高く評価されている。自分たちが認めてもらっているということに対して、社員は大きな喜びを感じている。以前に比べてだいぶ表情も明るくなってきた。 

CS(顧客満足)=ES(従業員満足)=SS(社会的満足)を実現し、誰もが働きたいと思えるあこがれの職場を目指している。ESの向上がひいてはCSにつながり、さらに会社自体が評価されるようになると信じている。

■個人の能力に依存しない働き方改革を

鍜治田良・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話)

正直ここまで成果が出るとは思っていなかった。プロジェクトチームでは、自分たちの仕事の棚卸しを行い、作業を一つずつ見直した。各人の1日の作業フローがわかるように「札」をホワイトボードに貼り出して「見える化」した。これだけでは何も変わらないが、毎日、定期的に、ホワイトボードの前に集まり、進捗を確認し、作業が終わったら「札」を外していった。これによって、コミュニケーションが促進され、集まった際に「今日はどう?終わりそう?人手が足りなければ手伝うよ」とお互いに声を掛け合うようになった。こうしたマネジメントがなかったら、何も変わらない。 

働き方改革が進んでいるが、今行われている残業削減の施策は個人の能力に依存するところが多い。「早く帰れ」と号令をかけて、「あとは頑張れ」という施策では残業は削減できない。個人に意識させる施策ではなく、マネジメントとしてどう進めていくかの施策の方がはるかに効果がある。 

人口減少社会の中で自社の本当の価値とは何かを見極めていくことが求められている。経営戦略や事業創造などの経営的視点はもちろん重要だが、試行錯誤しながらノウハウを蓄積していく現場的視点も極めて重要だ。「現場はただの作業しかやっていないだろう」という人もいるが、現場には優れたノウハウがたくさん埋もれている。そうしたノウハウをもとに、現場の人たちを巻き込んで、新しい事業を生み出していくことが期待されている。

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