第2回:次世代ビジネスリーダー育成~ニチレイ~(2016年7月5日号)

■次世代を担うビジネスリーダーを育成

ニチレイ(持株会社)は、グループの次世代を担うビジネスリーダーを育成する約半年間のプログラム「志高塾」(ニチレイHCビジネスリーダー養成講座)を昨年度から開始した。 

狩野豊・ニチレイ人事総務部長は、「2005年の分社化により、スタッフ部門が中心となって設立されたニチレイプロサーヴでは、シェアードサービス機能としての専門性の発揮や、各事業会社の課題遂行支援に軸足が置かれてきたが、今後(2013年、ニチレイプロサーヴは持株会社に統合)は、より『求心力』を発揮してグループ企業価値の向上に取り組むことが求められている。そのためには持株会社として、グループ経営的視点で、より高度なコーポレート機能を発揮していく必要があるので、それを遂行できる人材を育てたいと考えた」とねらいを語る。 

ニチレイは、ニチレイグループ全体を統括する持株会社として、グループ全体の経営プランニング・モニタリング・資金調達・各事業会社の経営支援の機能を有し、企業価値の最大化を目指した組織運営を推進している。事業会社には、冷凍食品事業のニチレイフーズ(以下、フーズ)、低温物流事業のニチレイロジグループ(以下、ロジグループ)、水産・畜産事業のニチレイフレッシュ、ニチレイバイオサイエンスの4社があり、中でもフーズとロジグループの事業規模が大きい。 

第1期の志高塾は、昨年9月から今年2月まで毎月1回(1回あたり2~3日)、計6回(延べ14日間)行われ、ニチレイ所属の経営企画、人事総務、財務、経理等のグループリーダー(以下GL。部長代理、課長層)14人が参加した。 

受講生は、経営戦略や財務・会計等、事業会社の分析に必要な知識を学んだ後、チームに分かれ、事業会社4社の分析及び4社の経営層との議論を行った。研修日程とは別に、各事業会社の物流センターや食品工場を訪問するチームも見られた。この間、法務、部下育成、メンタルヘルス、労務管理、内部統制等の学習も行った。 

最終回の第6回には、グループ発表と個人発表が行われた。グループ発表では、フーズとロジグループの2事業会社の経営課題解決策と、ニチレイグループの企業価値向上の方向性を、事業会社の経営層などに向けて提案した。個人発表では、各受講生が「自部署の5年後の理想像とアクションプラン」を上司に向けて宣言した。 

研修全体のコーディネーターは加藤篤士道・日本生産性本部主席経営コンサルタント、討議のファシリテーターは加藤氏と檜作昌史・同本部主任経営コンサルタントの2人が務めている。 

「志高塾の第一の目的は、事業会社の事業を知ることだ。持株会社に必要なのは、事業の空気を肌感覚で理解でき、事業会社の社員と対等に話ができる人材だ。事業会社の財務諸表や経営計画を理解するだけではなく、社員の生の声を聞いて、事業会社が抱える悩みや経営課題を共有化することが重要だ。第二の目的は、持株会社社員のレベルアップだ。この10年間、体系的な教育ができていなかった。GL層の教育から始め、今後は、マネジャー(課長代理)層、主任係長層へと対象範囲を広げていきたい」(狩野人事総務部長)という。 

6月からは、12月までの日程(延べ14日間)で、第2期の志高塾が受講生16人でスタートした。第2期では、主な対象がGL層からマネジャー層に変わったため、持株会社のマネジャーとして必要な基礎知識を幅広く学ぶことを研修の主眼としている。マネジャーとしての心構えや基礎知識、ロジカルシンキング、ロジカルプレゼンテーション等の研修項目を新たに加えた。 

12月の最終回では、「リーダーとしての理想像」と「組織の課題解決」(自部門の課題の明確化、課題解決に向けた今後の取り組み等)を受講生が発表する予定だ。 

今後については、「持株会社の構造改革と人事制度改革を現在検討しているが、そのプロジェクトを第1期の受講生を中心に回していきたいと考えている。それが可能になれば、志高塾が人脈の面でもスキルの面でも生かされるだろう。この研修を、持株会社の経営課題をみんなで考えるきっかけにしていきたい」(狩野人事総務部長)としている。 

■研修で持株会社の再構築はかる

(狩野豊・ニチレイ 人事総務部長の話)

2005年の持株会社化は、冷凍食品と低温物流などの事業を財務的にも構造的にも独り立ちさせ、それぞれの業界で生き残るという、遠心力の効いたグループ経営が一つのねらいだったが、その間、持株会社の機能は、ニチレイプロサーヴに分社化、2013年に再統合されるといった経緯もあり、教育体系もあまり整備されていなかった。 

研修では、事業会社をどう巻き込むかに留意した。特にフーズとロジグループの2社には、経営企画部長を中心とした経営幹部に相当な時間を取ってもらった。課題の共有と解決策についての意見交換は、四つの事業会社ごとにすべて行った。1期生の最終成果物はグループの会長、社長全員に配布している。 

志高塾を通じて、持株会社のあり方の再構築をはかっていくことを重視している。事業会社とのネットワークを構築し、気軽に相談できる環境をつくることと、持株会社社員としての当事者意識を醸成することに特に力を入れている。 

第1期では、ワークショップや自らの想いを描き切るというアウトプットの部分が多かったのに対し、第2期では、『プレーヤーからマネジャーへ』をコンセプトに、論理的にものを見て伝える力やコミュニケーション力等の底上げを図るため、インプットの部分を増やした。 

第1期の終了後、GL間の日常のネットワークが予想以上に活発になり、前よりも本音で話ができるようになった。今後の進展を期待したい。

■「エデュケーショナル・コンサルティング」の好事例

(コーディネーターを務めている加藤篤士道・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

今回の研修では、全社的な視点でものを見て、かつ、事業会社と対等なパートナーという関係で、リーダーシップを発揮し、組織を引っ張るリーダーを育てたいというリクエストがあった。リーダーシップを発揮するには、その相手である事業会社をよく知る必要がある。事業会社の社員と同じ目線に立って、経営課題の解決案を考えてもらった。 

事業会社も趣旨を理解し、快く受け入れてもらった。惜しみない情報提供もあり、議論や発表の場面でも本当に多くの経営幹部に出席いただいた。他社では見られない、この関わり方の密度の濃さが志高塾の最大の特徴だ。 

我々は近年、「エデュケーショナル・コンサルティング」を提唱している。「研修と経営コンサルティングは両輪であって、研修というツールを使いながら、当該企業のコンサルティングを行い、企業価値を上げていく」「企業価値の向上を達成するための一つのツールとして研修を行い、人材育成を図っていく」考え方だが、グループ全体の企業価値の向上を大命題に掲げる志高塾は、まさに「エデュケーショナル・コンサルティング」の好事例といえる。 

中小企業の場合はトップが決断すれば即、実行となる場合が多いが、大企業の場合はトップが決めてもなかなか全体が動かない。社員に考え方を理解してもらい、実行してもらうツールとして、研修を行うことは非常に効果的だ。「エデュケーショナル・コンサルティング」の要素を取り入れた研修やコンサルティングを今後、増やしていきたい。

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