第3回:働きがい向上のための人事制度~ヨシモトポール~(2019年10月5日号)

■新人事制度で働きがい向上

公共インフラ、情報通信、防災、電力など、多彩なポール製品の製造・販売を行っているヨシモトポール(本社=東京・千代田区有楽町)は、グループ企業を対象に、2016年4月から新人事制度を導入した。等級制度、評価制度、賃金制度、能力開発制度が一貫性をもって構築され、実力に応じた公正で透明性の高い人事制度を整備することで、社員の働きがいの向上を図っている。

新人事制度は、①能力向上や貢献度に報いる人事管理の実現(年功色の強かった人事管理から、能力発揮の度合や職責貢献度を重視した人事制度へ)、② 社員の発揮能力や職責貢献度を評価するモノサシ(基準)の明確化(ルールを整備し、等級ごとに評価基準を明確に定め、社員のがんばりや貢献度を評価する)、③社員の生活面に配慮しつつ、能力レベルや職責貢献度に応じた給与構造、が特徴となっている。

コース・等級制度については、職種・転居を伴う異動非限定の「総合職」、職種非限定・転居を伴う異動のない「一般職」、主として製造部門の技能職業務を担当する「技能職」に区分した。

等級制度については、旧来の「職能資格等級のみ」から「職能資格と職責等級のダブルラダー制」(非管理職は職能資格のみ)に変更した。管理職層には職能等級とは別に、職責の大きさに応じた職責等級を設定し、職責に応じた職責給で報いるようにしている。

職能資格等級は、昇格運用の年功化を避けるため、「総合職」は6区分、「一般職」と「技能職」は5区分としつつ、各等級を枝番化しステップアップが感じられるよう工夫した。

人事考課制度については、「総合職」と「一般職」では、年2回のアウトプット(成果)評価とプロセス(期待する行動)評価を行い、それらを合わせて総合考課とした。技能職では、プロセスを主体とした評価とした。

アウトプットは目標管理による目標達成度で評価を行う。定型業務が比較的多い一般職のアウトプット評価については、簡便性を優先し「仕事の質・量」の定性的な評価とした。プロセスは「チャレンジ」「チームワーク」等の達成状況を評価する。

これに伴い、目標管理制度を新たに導入した。「従来は自分がどう評価されているかがわかりづらいという声があったが、新制度ではどういう目標を立て、どういう行動を取れば、評価されるかがわかるようになった。

目標管理の評価項目については、経営環境の変化に対応して、流動的に変えており、イノベーションやタイムマネジメントの評価項目などを新たに取り入れている。これによって、会社のメッセージを社員にダイレクトに伝えやすくなった」(宮﨑光太郎・取締役人事・管理部長)という。

給料制度については、一定割合の年齢給、家族手当、住宅手当は残した。基本給は能力

等級に応じて決まる「職能給」(全社員)と、職責等級に応じて決まる「職責給」(管理職)から構成されている。

管理職層の基本給は「年齢給」「職能給」「職責給」で構成される。責任のある地位についた人に支給する「職責給」を新たに設けた。管理職層の「職能給」は、職能等級別一律のシングルレート(単一給)とし、「職責給」は、職責等級別・考課成績別に決定されるレンジレート(範囲給)で、洗替方式(評価成績に応じて毎年変わる方式)とした。

非管理職層の基本給は「年齢給」と「職能給」で構成される。「職能給」は、職能等級別・評価別に決定されるレンジレート(範囲給)で、スライド方式(評価成績に応じて累積する方式。マイナスあり)とした。

管理職層および非管理職層の「年齢給」については、そのウエートを引き下げ、実力に応じた給与構造とした。

賞与制度は、安定的支給の基礎賞与と、業績や個人の貢献度に応じて変動する業績賞与(変動)で構成することにした。 

■1人1人が挑戦意欲持つ社員に

(今井貴光・ヨシモトポール 常務取締役の話)

新制度ではグループの社員が自主的に自発的に行動できることをねらいとしており、生産性の向上、業務の改善、スキルの向上などについて社員一人一人が考え、行動して、社会人として成長することを促している。

目標管理制度の導入によって、上司と部下が定期的に面談することになり、お互いの意見の擦り合わせができるようになった。上司・部下間のコミュニケーションが活発化し、風通しがよくなった。自身の能力を高めないと昇格昇給できない制度になり、社員の学習意欲も高まってきた。上司も、部下を成長させるためにはどうしたらよいか、部下に足りないものは何かを考えるようになり、マネジメント層の意識改革にもつながっている。

当社社員の平均年齢は若く、50歳代のベテラン層が少ない年齢構成になっており、若手・中堅社員の成長が企業の成長に直結する。創業者である由井克巳代表取締役会長の想いである「一人一人がエンジンをつけて走る会社」を目指し、一人一人が挑戦意欲を持ち、前向きに目標に向かって取り組む組織風土を醸成していきたい。

■家族主義的な組織風土にも留意

大場正彦・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

ヨシモトポールグループの新人事制度の設計にあたっては、経営方針、経営ビジョンなどを把握し、経営戦略の整理、求められる人材像の明確化、許容されうる人件費の分析などを経て、人事制度を構築した。新制度では、不具合修正の積み重ねで継ぎはぎが多くなっていた旧制度を一新し、人事管理の基準・ルールの明確化を図り、透明性を確保することにした。また、働き方改革を先取りして、残業管理や労務管理のルールも整備している。

コンサルティングの究極の目標は、組織内のメンバーが自律的に成長することによって、コンサルティングが必要でなくなる組織になることだと思うが、同社ではそれが体現されつつある。役員報酬の見直しや、ガバナンスの仕組みの構築などの自律的な活動が継続的に行われている。毎年、社内の従業員意識調査を行い、その結果を分析して、改善に結びつけるPDCAサイクルも回っている。

制度設計にあたっては、同社が持っている家族主義的な組織風土を生かす制度とすることにも留意した。

IT業界やグローバルに事業を展開する企業など、変化の激しい業界では、アメリカ型のジョブ型人事制度が機能することが多いが、国内を市場とする中堅・中小企業の場合は、長期雇用を前提とするのであれば、従業員がステップアップしていることを実感でき、一定レベルのところまでは大きな差をつけず、皆をあきらめさせない日本的人事管理の良さにも目を向けるべきだと考える。

ただ、日本的人事管理のデメリットの一つである、人件費の右肩上がり化については、手を打つ必要があり、賞与の変動費化や定期昇給で必ず給料が上がることを是正したり、実力に応じた昇格なしには給料は上がらないといった仕組みとすることが重要だ。

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