第2回:理念浸透と社内一体化~オカフーズ~(2019年7月25日号)

■朝礼後の「環境整備活動」で社内一体化

オカフーズ(本社=東京・築地)は、「環境整備活動」などで組織の土壌を整え、経営理念や経営戦略などの明確化・共有化を行い、従業員への浸透を図ることで、安定した収益を継続的に生む仕組みを構築している。

同社は、製法特許を持つ「骨取り切身百選Plus」シリーズや、嚥下がしやすいよう、ふんわりやわらかな食感に仕上げている「ふんわり漬魚」などの開発・製造・販売を手掛ける「魚」の専門会社。

日本生産性本部では2012年度から、組織・人事制度の構築、月次業績管理の仕組みの高度化支援などを行ってきた。近年は、マネジャー層による月次での業績等の進捗管理や、各プロジェクトテーマごとの中期経営計画の進捗状況確認と検討などを支援している。

2011年8月に社長に就任した岡孝行代表取締役は、「会社を変えるには一人では難しいと思った。当時は組織・人事制度に課題があったので、生産性本部に相談した。そこで、鍵谷さんに『一倉定の経営心得』という本を紹介してもらい、それまでの自分の考え方が間違っていたことに気付いた。本に『環境整備をやりなさい』『方針書や経営計画書を作りなさい』『お客様を訪問しなさい』と書いてあったので、その通りに実践した。当初は社内外から反発を受けたが、あるときから『会社はこうあるべきだ』ではなく、『みんなで一緒に幸せになりたい』と意識するようになり、どうしたら社員にやりがいを持ってもらえるのか、社員に幸せになってもらえるのかを考えるようになったら、少しずつ信頼関係が生まれてきた」と語る。

「環境整備活動」は、朝礼後に行われ、社長以下全員が参加する。掃除のほか、モノ・仕事・メール・データなどの有形・無形の不要なものを廃棄する整理整頓や、「3定」(定位置・定品・定数)の推進などを行っている。2018年の6月からは、3カ年の中期経営計画をスタートさせた。中計の具体的な取り組みテーマとして、「既存販売市場の高収益構造化」「生産管理機能の強化による生産性向上」「業務革新活動による労働生産性革新」などを掲げ、テーマごとにプロジェクトチームを編成し、月次の会議で進捗状況の共有化を図っている。

業務革新活動では、全部署のあらゆる業務をすべて見直し、マニュアルとスキルマトリックスを用いた多能工化、業務の統合、ペーパーレス化、ロボットの導入などで徹底的に効率化を図った。

「業務革新活動などによって、定型業務の時間を全体で4割程度、削減できた。1人当たりの年間実労働時間は、5年前と比べると600~700時間短くなった。一日の所定労働時間を8時間から7.5時間に短縮し、定時退社時間を17時半から17時に早めた。成果の一部は、特別賞与として還元している」(岡社長)。

また、同社の管理職は部下への指示や命令を行わず、評価も行わない。「社員約40人の規模なので、社長が直接面談して、対応した方が一番いいと考えた。指示、命令、評価が絡むと、『指示されたことをやらないと評価が下がるのではないか』といった忖度がお互いに働き、仕事に集中できない。部門長は部下の仕事がしやすいような環境をつくることに徹し、問題が起きたときのフォローに回る仕組みに変えた。社員は社外のステークホルダーとの関係構築などの外向きの仕事に集中したら、生産性が向上し、指示待ちも減った」(岡社長)という。

岡社長はCHO(最高健康責任者)を兼任しており、社員の健康にも力を入れている。健康増進のためのスポーツジム・ヨガ教室などの受講費用の半額会社負担や、インフルエンザの予防接種費用の全額会社負担などが行われている。

これらの活動の結果、離職率は大きく低下し、ここ数年、社員は誰も辞めていないという。今後は、海外市場への展開などを図っていく予定だ。

■経営理念浸透へ「方針手帳」配布

(岡孝行・オカフーズ 代表取締役の話)

環境整備を通して、気付く力や改善する力など、社会人としての基礎力が身に付く。掃除をすることで、誰でも「キレイにできた」という変化を具体的に実感できる。イノベーションや組織改革のような大きな変化をすぐには起こせない人でも確実に変化を体感できる。結果もすぐわかり、それが喜びにつながる。環境整備は「小さな成功体験を積み重ねる仕組み」になっている。

当社では、「ステークホルダーの役に立つ」を経営理念に掲げている。「役に立つ」とは、①利他の心で、②主体的に考え、自主的に行動し、③自己の成長を通じて、④ステークホルダーに喜んでいただき、⑤結果としての売上(支持)と利益(力)の向上と社員の物心両面での幸福をもたらす活動のことだと定義している。

理念を重視する自身の想いを社内に浸透させるために「方針手帳」を毎年作成し、社員に配布している。全社員が参加する「岡塾」も月1回開催している。

経営理念を浸透・実現させるには、あきらめずに根気強く取り組むことが重要だ。社員は、最初は「この人は本気なのか」という目で見ている。また、社員もステークホルダーであり、ステークホルダーへのお役立ちは労働条件の向上など、自分たちにも関わってくることだと伝えた。社員の共感を得るまでには5年ぐらいかかった。

安定した利益を継続的に生むことを常に念頭に置いている。原材料となる魚の資源量の問題や価格高騰など、経営環境は非常に厳しいが、設定した利益目標に到達したら、社内外のステークホルダーとの信頼関係をより強固にすることにお金をかけている。

■理念で結ばれた良好な人間関係づくりの醸成を

(中期経営計画の策定、実行支援などを行っている鍵谷英二・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

経営理念の実現に向けて、ブレずに、よく考え、納得できるものを取捨選択し、正しいことを大胆に実行する岡社長の姿勢は、社員の幅広い共感を得ている。事業経営には好循環と悪循環のどちらかしかない。好循環をつくる鍵は経営者にある。

業績の良いときに先を見た投資やコストの引き当てを行っていて、事業に安定感がある。特定の取引先に依存しないようにしており、ムリをしていない。社員、仕入れ先、製造パートナーなど、すべてのステークホルダーに役に立つことを真剣に考えて実践している。

社員のがんばりに期待するのではなく、「仕組み化」によって、オペレーション業務の効率化を進め、付加価値を高める業務へのシフトを図っており、生産性は飛躍的に上がっている。海外の製造パートナー企業づくりにも尽力し、成功している。グループ企業でもなく資本関係もない、中国とベトナムの事業パートナーとは社長同士の強固な信頼関係を築いており、現地でも、日本と同様に、経営理念の浸透活動や環境整備活動が行われている。

同社の取り組みは、生産性改革や働き方改革のベストプラクティスの一つになると思う。中期経営計画の策定、実行支援のコンサルティングを企業が受ける際には、取り組みテーマの担当者がしっかりと当事者意識を持っていることが大前提だ。当事者意識がないと実行力を伴わず、「絵に描いた餅」になる。

経営トップには、理念(事業目的)で結ばれた良好な人間関係づくりや、思ったことを会議で言いやすい雰囲気づくりが求められる。

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