第1回:ものづくりリーダー養成講座~群馬県中小企業モデル工場経営研究会~(2014年6月25日号)

■自己研鑽に励む群馬のものづくり企業

自動車産業などのものづくり企業が集積している群馬県では、中小企業の近代化・合理化をはかるため、国の制度に準じて、「群馬県中小企業合理化モデル工場制度」を昭和41年度に発足させた。国の制度は平成8年度に終了したが、県の制度は「群馬県中小企業モデル工場制度」に発展的に改正され、現在に至っている。「同様の制度を今でも行っている県は非常に少ないのではないか」(中村香保里・群馬県産業経済部工業振興課次世代産業振興係主事)という。 

モデル工場に指定されるには、経営の合理化に熱意があり、独自の技術力を持つ企画提案型企業であること、または自社製品を持つ開発型企業であることや、企業の収益性、安全性等経営成績が総合的に良好と判定されるものであることといった条件がある。 

「群馬県中小企業モデル工場経営研究会」は、県に指定されたモデル工場の会社が自主的に集まっている研究会で、昭和52年に発足した。 

活動としては、総会、県内視察、県外視察、情報交換会、講演会などを実施している。県内視察では会員企業の工場などの見学、県外視察では他県の優良企業を視察している。 

今回取り上げる「ものづくりリーダー養成講座」も、研究会の活動の一環として行っており、県では研修内容についてのアドバイスや研修会場の提供などの支援を行っている。平成18年度から開始し、ほぼ毎年開催している。 

開始当初は、各企業の経営トップ層の世代交代の時期でもあり、後継者育成が課題だったことから、社長や役員、経営幹部などを対象に、経営戦略やマーケティング、財務などの経営分野を学習した。一昨年度は課長層、昨年度は入社5年目前後の中堅社員を対象としている。 

「各社で何が一番悩んでいるかを考えてみた場合、やはり人材の教育が一番大きな課題だと思った。中小企業だと、入社する前に社会人としての一般研修を行うことはあるが、入社後は社員を研修に出せる中小企業はそんなに多くはない。研究会として開催することで、会員企業参加各人の自己研鑽にもなるし、他社の社員と切磋琢磨できる。他社の社員の話を聞き、議論を重ねることは大きな刺激になる。これまでは1社1人という制限があったが、昨年度それを撤廃したところ、参加者が30人に増え、1社で4人派遣してきた企業もあった」(天田誉哉・セイコーレジン代表取締役社長)と、研修の手ごたえを語る。 

昨年度の講座では、9月から1月までの5カ月間に、月1日開催し、コミュニケーション、仕事の基本(企業の存在意義、目的・目標、PDCA、指示・命令とホウレンソウ、チームワークなど)、ロジカル・シンキング(ロジカルな問題の解決の基本と演習)、プレゼンテーション、モチベーション(モチベーションの源泉、外発&内発的モチベーションなど)などのスキルの習得や、自らのキャリアの振り返りや決意表明などをカリキュラムに盛り込んだ。

■異業種交流でスキルアップ

(群馬県中小企業モデル工場経営研究会の会長を務める天田誉哉・セイコーレジン 代表取締役社長の話)

群馬県は昔から絹(織物)産業が盛んだった。その流れでものづくり産業が盛んであり、今では食品産業なども多い。この会は、県よりリーダー的な存在の中小企業27社を選定いただき、様々な活動を展開している。 

その一つである人材教育活動として開催した「ものづくりリーダー養成講座」。私も昨年度の講座すべてに顔を出し、講義風景を眺めていたが、最初は硬い表情でなかなか話せなかった参加者も、回を重ねるうちに表情も和らぎ、様々な議題に対し、真剣に意見を交わしていた。参加者の発想もその人、その企業、その業界の様々な色があり面白かった。普段議論している社内の人以外の異業種の人々と交流が持てて、様々な考え方を吸収してくれたと思う。 

昨年度は当社からも係長クラスを2人派遣した。普段は自分の仕事はこなしていたが、部下を指示・指導する際に適切な言葉がなかなか出てこない社員であった。

この講座に参加して、効果的な話し方や伝え方を知り得て、少しではあるが、会話のキャッチボールができるようになった。本人のモチベーションも高まったようだ。 

当社自体の社員教育はOJTが基本であるが、当然それだけでは不十分だ。またOJTではその企業における独自の能力は育つかもしれないが、その指導する人のレベル以上の人材は育ちにくい。 今年度の講座は、昨年度のアドバンスコースとして位置づけ、よりレベルアップをはかっていきたい。昨年度と同じ人が受講してもいいし、違う人が受講してもいい。この講座を通して、人材育成と人脈の輪ができればと思っている。 

今年は11年ぶりに研究会に新規入会企業があったが、あらゆる分野にモデルとなる中小企業があっていいと思う。異業種の会合に顔を出すと、様々な見方や発想を身につけることができると私は考えている。もっといろいろな企業に入っていただきたい。 

■スピードが求められる人材育成

(昨年度の研修を指導した木下耕二・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

昨年度の参加者は30人におよび、参加者は主任クラスから社長の右腕のような人まで、職種も製造、営業、総務とバラツキがあった。バラツキは落後者(研修を途中でリタイアする人)発生の原因となる。落後者を出さぬよう、役職の高い人にはグループをまとめてもらう役割を果たしてもらったり、「講義や演習の目的」や「目的達成のためにはどういう準備をしなければならないのか」について参加者に丁寧に繰り返し理解を促した。また、参加者の現実の仕事の課題を可能な限り研修の教材とさせていただいた。 

話して伝えることを得意としない参加者が多かった。「考えていることを言語化し、それを人に伝え、その反応で再び考え直して、また言語化し……」というプロセスをいろいろテーマを変えながら繰り返し、習得してもらった。このプロセスは、日々の仕事にも大いに役立つ。 

経営が人事や人材育成部門をみる目は総じて厳しい。人材育成の業界では、長期間の育成や全員の底上げが暗黙の前提となっていると感じることがある。それでは経営のスピードや厳しさについていけない。経営は、経営に役立つ人材、究極には儲けることができる人材を求めている。経営の意識と人材育成業界の暗黙の前提の間には、看過できない溝が存在しているのかもしれない。 

人材育成に時間をかけている間に世の中は変化している。人材育成への投資原資には制約がある。皆を育てる方向性と本人の育つ意欲や能力、資質に基づき選抜して育てる方向性へと二極化が進む。 組織決定されたことが実行できていない状況に多々遭遇する。トップの方針を忠実にスピーディーに現場に下ろすミドル本来の役割は重要度を増す。 

環境変化は激しく早い。中長期的な業績へ多大な影響を及ぼすドメイン変更などの大きな、後戻りできない意思決定やその実行をリードできる経営人材の確保はまったなしの課題である。既存のリーダー教育やマネジャー教育の多くは経営人材育成にははなはだ力不足である。教育の前工程において、経営人材といわゆるリーダー、マネジャーを峻別することは必須となるだろう。

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