製造業のノウハウを生かしたサービス業の改善・改革③(2016年5月15日号)

■マニュアルの作成および展開

今回は、マニュアルの作成および展開について説明したい。 

前回説明したムダ取り改善は、作業の「標準時間」を短縮する取り組みである。しかしそれだけでは作業の「実際時間(平均時間)」が想定通りに短縮するとは限らない。作業時間のバラツキというものは、長くなる方にはバラツクが、短くなる方にバラツクことはほとんどないため、作業時間のバラツキが大きいと「実際時間(平均時間)」は標準時間に対して長くなってしまうからである。 

従って、作業する人達のスキルのバラツキを減らすことは、作業時間のバラツキを減らすことになり、それは「実際時間(平均時間)」の短縮につながることになる。つまりスキルのバラツキ削減は、改善によるムダ取りと同様に生産性の向上につながる重要な取り組みであると言える。 

一般にサービス業は、働いている人の流動性が高いと言われているので、従業員のスキルアップを進める等の「今いる人を活かす技術」「採用した人を早期に戦力化する技術」の獲得は重要な課題である。 

スキルのバラツキを減らす上で、まず「熟練」とは何かについて改めて考えてみたい。「Aさんが速いのは、もう5年もやっているからだ。Bさんが遅いのはまだ3カ月しかやっていないからだ」のような話をよく聞く。この考え方では、「熟練とは、習熟期間の長さによって決まる」ということになってしまうが果たしてそうだろうか。 

本来、熟練とは次のような二つの要素から成り立っている。

熟練=「良い方法」×「慣れる」

この場合の「慣れる」は、まさに習熟期間の長さに比例する。一方「良い方法を行うか、良くない方法を行うか」は、習熟期間とは全く無関係である。良くない方法でも長くやっていれば、ある程度の速さは期待できるが、それは「習熟者」であって「熟練者」ではない。 

熟練者の真の理由は、その90%までは、どんな良い方法をやっているかに左右される。「良い方法」に「慣れる」ことによって熟練するのであるから、スキルのバラツキを減らすためには、最初に「良い方法」を決めて、マニュアル化によってこれを見える化し、指導していくことが重要である。 

このような目的でマニュアルを整備していく場合は、マニュアルを作業指導のためのツールとして割り切り、熟練者の「良い方法」をどうやったら分かりやすく伝えることができるかを最優先に考えた、分かりやすいものにした方がよい。そのためには誰でも内容がイメージしやすい写真や動画などを最大限活用することをお勧めする。 

前回紹介した作業分析ソフト等を活用すれば、効率的に動画マニュアルを作成することも可能である。図は動画マニュアルの一例である。作業動画の他は作業ステップ(図の左上)と「良い方法」を示す作業のポイント(図の右下)のみに絞ったシンプルなものになっている。 

動画マニュアルは、教育対象者の作業動画とマニュアルの作業動画を同時再生するような活用も可能である。教育対象者は自身の作業動画と見比べることにより、様々な気づきを得やすいので教育効果が高い。 マニュアルづくりを通じて、多くの人々がそれぞれの知識や経験を持ち寄り、仕事のやり方はどうあるべきかを検討するような活力ある組織への展開を是非期待したい。

(おわり)

コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

高田 晴弘

早稲田大学理工学部応用物理学科卒業後、東洋ゴム工業株式会社化工技術本部にて新製品開発関連業務を担当。工程改善・品質不良対策等による生産効率向上にも寄与。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1959年生)

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