第3回:全県単一JAの人事制度統一~JAしまね~(2017年9月25日号)

■組織統合後2年、人事制度も統一

JAしまね(島根県農業協同組合、本店=島根県松江市)は、2015年3月に、県内の11のJA(農業協同組合)と県域連合組織である中央会・信連が統合して発足し(信連は同年11月統合)、旧JA単位での地区本部制を採用している。統合効果をより発揮するため、従来ばらばらだった人事制度を統一し、今年4月から新人事制度を導入した。 

全県単一JAを実現したJAしまねは、全国でも最大規模のJA(正組合員と准組合員を合わせた組合員数は約23万人)となり、職員数も全国のJAでトップ(正職員数約2100人)となった。広域化と大規模化で経営を効率化し、「儲かる農業の実現」「統合メリットの創出」を目指している。 

新人事制度は、一般職では職務遂行能力を身に付け、管理職になると年齢や経験にとらわれない役割を重視した制度となり、人事考課、目標管理、賃金・賞与、人材育成がトータルに連動する制度となった。 

「一般職層」(1等級~6等級)については、能力主義による職能等級基準により育成する期間と位置付け、集中育成期間・適性把握期間として、職能等級制度を導入した。 

一般に、職能等級制度は、職員個々が保有する職務遂行能力の高さに応じて等級に格付ける制度。人の能力に応じて仕事の範囲を割り当てる。職員個々に格付けされた等級と年功要素にもとづき給与を設定する。 

ただし、指導・監督的立場にある5等級と6等級については、職位に従事するための実践・経験期間とし、6等級の在級年数が3年以上などの基準を満たした者は管理職登用試験の受験資格を得る。 

「管理職層」(G1~G5)については、職務遂行能力が十分に備わった上で、役割や役割に求められる成果を重視する層と位置付け、役割等級制度を導入した。 

一般に、役割等級制度は、「役割」の大きさに応じて、その役職を等級に格付ける制度。役割を明確に設定し、そこに役割ができる人や期待できる人を配置する。人でなく、与えられたポストや役割に応じて決められた給与を設定する。 

賃金制度については、11の地区本部および連合会の間において相当の格差が存在していたことから、大幅な賃金変更を伴う新賃金制度への移行は困難だと判断し、12本あった賃金表を3本の賃金表に集約した。将来的には1本の賃金表にしていきたいとしている。 

一般職の基本給は本人給+職能給で、本人給は統一した賃金テーブルとし、職能給は3種類の賃金テーブルへ集約して、本店・地区本部ごとに適用する賃金表を設定した。 

管理職の基本給は担当する職位によって設定される「役割給」で、本店・地区本部ごとに役割の大きさに応じて各ポストを役割等級に格付し、役割等級別に賃金を設定した。「管理職に登用試験が課せられるようになり、管理職になりにくくなるのではないかという懸念もある。それについては、けっして管理職に上がれなくなる制度ではなく、がんばれば従来よりも早く管理職に登用される制度だと説明している」(遊木雅子・JAしまね人事教育部人事課課長)。 

人事考課制度(目標管理、人事考課、面接制度)についても、制度の公平・公正な運用を目指すため、統一したルールと運用を実施する。目標に対する達成度は、人事考課制度の考課要素の一つである「業績考課」に反映させる。 

当面は地区本部間の人事異動は行わないことを基本としているが、「将来的には地区本部をまたいだ異動がスムーズに行えるようなコース設定を検討していきたい」(遊木氏)という。 

今後は、退職金制度の設計や「人材育成基本方針」の作成を行う。「私の出身母体である旧JAいずもにおいても人事制度が浸透するまでには時間がかかった。新制度も十分な時間をかけて職員に浸透させていきたい」(遊木氏)としている。    

■職員の一体感醸成する制度に

(高木賢一・JAしまね 代表理事専務の話)

統合時の人事制度の方向性は、旧JAごとの制度を運用しながら平成30年4月の統一を目途として検討するとした。統合後、地域農業や生活を守るためには職員の一体感を醸成する人事制度統一が最大課題の一つと位置付け、業績確保と総額人件費コントロールの両立を志向し、経営者・職員・組合員利用者等の三者満足の向上を目指して、平成29年4月に制度統一を目指すことを決定した。2名の専任者を配置し、日本生産性本部の献身的なコンサルを受けて設計をすすめ、様々な内部協議や労組協議を重ねながら導入となった。 

今後、実際に運用していく上では課題も多いと考えるが、この制度がトータル人事制度として有機的に機能し、働きがいのある職場を作り上げることを目指していきたい。 

■早い段階で一本化し、シナジーの発揮を

(人事制度を構築した加納良一・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

一般に、JAにおいては、人件費のコントロールが経営上の大きな課題となっている。 

協同組合であるJAは非営利組織で、組合員を含めた地域住民に各種サービスを提供し、組合員の所得向上や生活向上を図ることを目的としており、サービスを維持・向上させるための事業基盤をしっかり確保することが求められている。 

基本的には地域経済の大きさによって、事業の規模や収益が決まってくるので、将来の業績予測に基づいたコストコントロールを行うことが非常に重要になる。今回の人事制度の構築にあたっても、人口予測や業績のトレンド、地域経済の動向などを踏まえながら、5年後、10年後、15年後の事業シミュレーションを行い、それをベースにあるべき姿を議論していった。シミュレーション結果においても、人件費のコントロールが経営上の重要なファクターであることが確認された。 

統合前の各組織においては、組織運営の方法も人事制度もばらばらで、業績の格差も相当あった。そこで、支払能力等を勘案して、当初は賃金表を三つ程度に集約し、次の段階において一つに集約するというステップを踏まざるをえないという結論に至った。 

ただ、組織運営という観点からは早い段階で一本化した方がよい。全体としての一体感を醸成するためにも、職員の採用、育成、配置、評価、昇進・昇格、給与・賞与等の一本化があってはじめて、合併効果を発揮する上での人の側面の条件がそろう。 

一本化によって地区本部をまたいだ異動の促進が可能となることで、それぞれが持っているノウハウなどが全体に波及し、シナジーが発揮されることにより組織は強くなる。県全体に活躍の場が広がり、意欲のある職員のモラールアップにもつながるだろう。 

生産性本部のコンサルティングでは、定性的な情報をもとにしてロジカルに将来のビジョンを戦略的に組み立てていくというアプローチよりは、実際の業績・人事データなどの定量的な情報をもとにしたアプローチを行うことが多い。現実はわかっているが直視したくない、あるいはこれまでのルールややり方を変えたくないという慣性はどの組織にも働く。あえて現実の定量データを提示した上で、解決案を真剣に議論していくことがコンサルタントの役割だと思っている。

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