第4回:管理職層にハイブリッド型人事制度~磐田信用金庫~(2016年11月5日号)

■管理職層にハイブリッド型人事制度を導入

磐田市、浜松市、袋井市などに店舗を構える磐田信用金庫(本社=静岡県磐田市)は、4月から新人事制度を導入した。 

新制度では、求められる人材群ごとに最適な育成を行い、実力・貢献度に見合った処遇により、「成果獲得に向けた人材力強化」と「人件費の適正化」を実現していくことをねらいとして、等級制度、賃金制度、評価制度などを一新した。 

同金庫では、昭和58年に職能資格制度を導入し、平成12年には給与制度や人事考課制度の見直しを行ってきた。旧制度は、ライン管理者として高いポジションを目指すことをモデルとした「総合職」のみの単線型人事制度だったが、職種による報酬面での不公平感が生じたり、適材適所の人員配置がしにくい、就業意識の変化に対応しにくいといった問題点があった。 

新制度ではこれを、「総合職群」「専門職群」「基礎職群」「パートナー職群」の四つの職群制に変更し、職務内容や就業ニーズに応じたコース別管理を導入した。「総合職群」と「専門職群」への転換制度は3年に1回設けられている。 

新卒職員は全員「基礎職群」に位置付けられ、大卒4年目、高卒8年目の時点で、職種非限定の「総合職群」か、営業店窓口や後方業務等の職種限定の「専門職群」のいずれかを選択する。非正規職員のうち無期雇用化を希望するパート職員は、「パートナー職群」に位置付けた。 

等級制度については、従来の職能資格制度が、年功的な運用に流れやすかったことや、等級と担当業務レベルに乖離が生じやすく、等級と業績が必ずしも直結していなかったことなどを踏まえ、管理職層は、職能資格と役割等級の2本立てとした。これにより、期待する役割の明確化や貢献度に応じた処遇の実現を目指す。  

給与制度については、職員の職務・能力・勤務成績および年齢、勤続に応じて定められていたが、年功部分の比率が高いことや、50歳代前半から本人給が減少することによるモチベーションの低下などが課題となっていた。 

新制度では、管理職の基本給は「資格給」と「役割給」に再構成(非管理職は「資格給」のみ)し、人事考課の結果や本人の働きぶりがより給与や処遇に反映されるようになった。 

退職金制度については、最終給与比例方式で算定しているが、退職時の最終給与に連動するために年功的な色彩が出やすいことや、在籍期間を通じた貢献度を反映したものにならないことなどの課題がある。4月からの新制度移行時には現行制度を継続しているが、今後、在職中における職務・職能等級等の累積ポイントを退職金に反映させるポイント制への移行を検討している。 

評価制度については、考課査定の中心化傾向が表れやすかったことや、考課項目が抽象的になりやすく、考課結果に対する納得性が得にくかったことなどを踏まえ、アウトプット(成果)とプロセス(行動)中心の考課へと見直し、その達成度・充足度・発揮度を評価することとした。 

また、管理職層、監督者層以上には新たに目標管理制度を導入することにした。アウトプットは原則として目標管理による目標達成度を評価する。プロセスは管理職の場合は役割遂行度を評価し、非管理職は発揮能力を評価する。 

「新制度の導入によって、職員の意識が変わって、意欲的になり、生産性が上がって、それが金庫の収益に結び付くという好循環を期待している。今後は、新制度の運用、定着をしっかり図っていきたい」(竹下篤・総務人事部長)としている。  

■魅力ある職場づくりへ

(髙栁裕久・磐田信用金庫 理事長の話)

地域経済と運命共同体である磐田信用金庫は、「地方創生」が叫ばれる今、あらためて経営の基本方針に立ち戻り、〝地域の発展と繁栄〟に率先して取り組むことが求められている。 

不確実性の高い時代において、金庫が持続的な発展を遂げていくには、その道標となるべき経営理念や経営方針、経営戦略の実現が鍵を握っており、その実現の要となる「人」の重要性は一段と増している。 

経営環境・経営課題に適切に対処し、将来を見据えた高収益体質への転換を実現するためには、職員の成長とそれを体制面から支える人事制度の抜本的な改革が不可欠だ。 

当金庫では4月から、3カ年の「第6次中期経営計画」をスタートさせた。将来にわたる持続的な発展の礎を築くために、「営業基盤の強化」、「経営管理体制の充実」、「収益・生産性の向上」、これに加え、「人材育成と魅力ある職場づくりの推進」の四つを大きな柱に掲げている。 

これを受けた今年度の業務計画では、「営業基盤の拡充を通じた収益力の強化」、「コンプライアンスとリスク管理の強化」とともに、「人材育成と活力溢れる職場づくり」を掲げており、新人事制度の定着や風通しの良い職場の実現などに取り組んでいきたい。 

■今こそ、従業員があきらめない人事管理を

大場正彦・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話)

磐田信用金庫では、非管理職は自身の成長を通じて組織に貢献するという意味合いを込めてコンピテンシーベースの職能資格制度とし、管理職層は組織成長への直接的な貢献を期待し役割等級をベースとしたハイブリッド型の制度とした。なお、管理職層では、思い切った抜擢による優秀な人材の登用も可能となっている。 

信用金庫ではまだまだ旧来型の職能資格制度を運用しているところが多いが、制度改革を始めたところではダブルラダーやハイブリッド型の人事制度を導入する動きが出てきた。優良人材のアトラクション力(惹きつける力)とリテンション力(定着力)を高めるためにも、ビジョンや戦略に適合した人事制度改革が求められる。 

昨今、成果主義を重視する傾向があるが、安易に日本型人材マネジメントを捨ててしまっていいのかについては、慎重に考えたいところである。 

組織が決めた方針に従い、与えられた職務をまじめにこなす人材のやる気を維持させ、長期にわたって貢献意欲を引き出すためには、一定レベルのところまでは大きな差をつけずに引き上げるという、ある種、年功的な人材マネジメントも有効ではないか。早くから差をつけ、皆がライバルのように見えてしまう組織では、自ら率先して助け合う風土や、お互いに教え合う風土の形成は難しい。 

長期雇用を前提に新卒をメインで採用し、内部で育成を図っていくことを重視する日本の地域金融機関においては、成長過程の人材には、自分の未来に希望が持てるような人材マネジメントを展開して、強いミドル層を形成することが今後も重要になるだろう。 

一定の能力レベルへ到達後は、右肩上がりの給与は是正し、そこからは貢献度に応じた処遇とすることは当然のことであり、また、組織にぶら下がって、組織に対して貢献意欲が乏しい人材には厳しく対処すべきであることは言うまでもない。 

今こそ、多くの従業員があきらめない(あきらめさせない)人事管理を考えていく必要があると思う。

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