第3回:働き方改革の推進~三井住友海上火災保険~(2018年10月15日号)

■人材戦略の一環として働き方改革を推進

三井住友海上火災保険では、2016年10月から、多様な社員全員が活躍できる機会と場の拡大を目的に、新たな人材戦略の一環として「働き方改革」を推進している。社員一人一人が個性や能力を最大限に発揮できるよう、個人の事情に配慮した職場環境を整備することで、多様で柔軟な働き方を推進するとともに、業務効率化などを通じて、総労働時間の短縮を図り、さらなる生産性向上と競争力強化を実現することを目指している。 

推進にあたっては、本社部門の各部門の組織長11人で構成する「働き方改革推進チーム」を立ち上げた。推進チームでは、「生産性の向上」「個人・マネジメント意識改革」「無駄・非効率の排除」「多様な働き方の支援」の四つの観点で取り組んでいる。 

「生産性の向上」では、全社員1万5000人を対象に、社外でも社内と同様のセキュリティレベルを保てるパソコン機器を配備したほか、営業社員の社用携帯のスマートフォン化、経営会議体をはじめ全会議を対象とする完全ペーパーレス化、全拠点の無線LAN化などを行った。 

17年4月には「遅くとも原則19時前に退社ルール」を開始した。やむを得ない理由がある場合はライン部長あての事前申請が必要となる。ルール定着に向けて、無線LANの全店配備やPOPツール(勤務状況を「見える化」するための卓上札。退社予定時間や残業申請の有無が一目でわかる。写真参照)の配布などを行った。 

「個人・マネジメント意識改革」では、社長メッセージの発信、部支店長マネジメント研修の実施、オリジナルの「働き方改革ガイドブック」の作成、人事評価に「限られた時間で生産性高く働くこと」を評価する項目の導入などを行った。 

「無駄・非効率の排除」では、「業務棚卸しシート」による業務の見直し、1200職場のアンケートから厳選した仕事のコツ「仕事術100選」の活用、会議2分の1運動の実施などに取り組んだ。「仕事の進め方の変革」にも取り組んでおり、限られた時間の中で組織目標を達成するための「仕事の段取り力」の教科書や動画などの専用ツールも開発した。 

「多様な働き方の支援」では、在宅勤務を17年に本格導入した。対象社員の制限を廃止し、時間給社員を除く全社員が制度を利用(原則週2回)できるようにした。「MSクラウドソーシング」(育児休業中の社員が育児等の合間を有効活用し、自宅で臨時就業できる)の制度化なども行っている。 これらの取り組みの結果、1人当たり平均残業時間は10%以上削減された。在宅勤務の利用者は15年度の1人から、17年度は約2000人となり、今では3700人に増えた。16年度と17年度の比較で高ストレス者数の割合は17%低下した。責任ある業務に挑戦したいという女性社員の割合も増加した。外部からも評価され、第2回「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の最優秀賞などを受賞している。17年度の同社の単体の業績は過去最高となり、大手損保3社の中でナンバーワンの売り上げの伸び率を達成した。

■労働時間のリバウンド防止に注力

(荒木裕也・三井住友海上火災保険 人事部企画チーム兼働き方改革推進チーム課長の話) 新たな人材戦略を考える人事部内のプロジェクトチームが2016年に立ち上がった際に、人材は会社の財産であり、人材の育成があってはじめて企業の競争力強化につながるという原点に立ち返り、人材育成のあり方を議論したが、そのためには長時間労働の是正が必要だという結論に至った。長時間労働から解放されれば、社員のやりがいや生きがいはさらに高まるはずで、自己研鑽やワークライフバランスの充実につながる。従業員の健康増進や健康リテラシーの向上にも取り組んでいる。 

今年4月からは、「労働時間のリバウンド防止」に力を入れている。一部の部署で労働時間が増えている。1日平均で数分程度だが、それを看過すると元に戻ってしまう。今一度、働き方改革の重要性を啓発するために、ラインの部課長1000人を8回に分け、1泊2日のマネジメント研修を6~8月に実施した。 

この研修では、「A」アサインメント(仕事・役割の最適化)、「B」バイアスフリー(偏見を持たない)、「C」コミュニケーション(チームワーク強化のために個や組織の力を高めていく)、「D」ダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を受容すること、多様な社員全員が活躍する風土をつくること)を重視する「ABCDフレームワーク」の当社が開発した考え方の浸透を図った。 

また、データ分析の結果、一部の職場では、上司からの指示・命令や、部下からの報告・相談がそれぞれ一方通行になっている傾向が出ていたので、お互いがしっかりコミュニケーションをとれるように「仕事の段取り力」に続く第2弾として「伝え方の教科書」(仮称)を作る予定だ。当社でよくありがちなケースについて、部下と上司のミスコミュニケーションの事例とその改善方法をわかりやすく説明する冊子の制作を検討している。

■改革・改善の立脚点を作るデータ分析

高橋佑輔・日本生産性本部経営コンサルタントの話)

三井住友海上火災保険の働き方改革は、日本生産性本部が支援する前から進んでいたが、同社はさらなる改革への推進力を得るためにデータ分析に着手した。 

そこで私たちは、通り一辺倒ではない切り口として、重回帰分析や因子分析などの多変量解析といわれる手法を提案した。平均値や割合を出すといった単純集計では見えづらいことが、多変量解析を行うと見えてくる。平均値は低いが満足度に与える影響が非常に大きい要素が出てくれば、それが最優先の課題になりうる。そうすると、課題のウエイト付けが可能になり、やるべきことの優先度が数字で明確になってくる。 

データの分析によって、人事の方々が肌感覚で何となく「そうではないか」と思っていたことが裏付けられた。改革に向けての施策の優先度や予算化が議論される過程において、それがエビデンス(根拠・証拠)になり、エビデンスに基づく議論ができる。 

ある仮説を持って経営や人事が改革を進めても、それを確かめるすべがない状態では「それはあなた方の見方だ」と言われたら意見を集約することは難しい。まず事実としてエビデンスを提示し、改革・改善の立脚点や土台をつくることはデータ分析の重要な役割だ。 

私はデータを活用した経営課題の解決支援を専門としている。自治体の市民アンケ―トを分析し、優先度の高い施策を提案するといった行政の仕事も多いが、最近は官民問わず、有効性の高い施策を打ちたいというニーズが強く出てきている。 

専門の分析ツールを持っていない中小企業でも、使い方さえ覚えれば、エクセルのボタン一つ押すだけで重回帰分析や相関分析ができる。その際は、平均点に加えてもう一つの軸、例えばバラツキを意味する標準偏差を加えて、二軸を意識した分析を行うことを勧めている。二軸で分析するとだいぶ風景が変わって見えてきて、深い分析ができるだろう。

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