第1回:JA全中のビジネススクール~全国農業協同組合中央会~(2023年7月5日号)

中堅職員1年間みっちり受講

JA全中(全国農業協同組合中央会)は、1年制のビジネススクールである「JA経営マスターコース」(通期コース)を1999年度から開講しており、今年度で25期を迎えた。


受講生は、JA都道府県中央会会長の推薦を経て、地域のJA(農業協同組合)から派遣されたJA職員で、今年度は23人が受講している。4月から翌年3月までの1年間、都内の社会人向けの寮に住みながら、教室がある東京・大手町の「JA全国教育センター」に通学する。


同コースのねらい等について、上杉聡・JA全中教育部JA経営人材育成課長は、「協同組合の理念をしっかり理解した上で、その実現のためのJAの経営戦略を立案し、その実行を担う基幹的人材の育成を図ることを目的としている。受講生は30歳代前半の、管理職手前の中堅職員が多く、全日制1年間の濃密なプログラムになっている」と語る。


同コースは、大きく二つのフェーズに分かれる。前期の4~8月には、JAグループ最高峰の試験である「農協監査士試験」(9月に実施)への挑戦を通じて、JAに関する簿記・会計・法務等の知識を習得し、後期の学習のための土台づくりを行う。

後期の9~3月には協同組合の理念学習や、経営戦略、マーケティングなどの経営学の講義、ケースメソッド、ベンチャー演習、経営診断演習などの「経営学習」が行われる。

1月以降は、1年間の学びの集大成として、受講生は、所属するJAの改革案を修了論文として執筆し、実証的・具体的な提案を織り込んだ改革プランづくりに知恵をしぼる。修了論文の作成を支援する「ゼミ」も9月から設けられ、今年度からはゼミの指導講師に大学教授や研究者が就く。


カリキュラムは毎年見直しが図られているが、2022年度からは経営診断実習が導入された。 経営診断実習は、座学において習得した経営に関する理論・技法を実際の企業・組織へ適応していく過程を通して、理論の定着、技法の再点検を図るとともに、企業経営・組織経営を総合的に把握する能力の向上を目指すもので、昨年度は、二つの実習先組織(JA横浜とJA東京中央)ごとに2グループに分かれた受講生が、日本生産性本部の2人の経営コンサルタント(鍜治田良・日本生産性本部主席経営コンサルタント、小林俊介・日本生産性本部主任経営コンサルタント)の指導のもとで、9日間の実習に臨んだ。


上杉氏は、経営診断実習の導入のねらいについて、「近年は、現実の経営課題そのものを教材とする学習を重視・充実しており、その一環として、日本生産性本部の協力を得て、昨年度から経営診断実習を導入した。現実の課題に取り組み、経営陣の前で発表することなどを通して、より緊張感を伴う学びが期待でき、混沌とした現実の中から課題を抽出するトレーニングにもなる」と語る。

実習にあたっては、事前に、経営診断プロセスを経験する「経営診断ケース研修」や、現場での改善手法を学び、実習で活用できるようにする「実践的コンサルティング技法研修」、2人の経営コンサルタントが事前準備の方法や実習の進め方などを指導する「事前オリエンテーション研修」が行われた。実習では、経営幹部へのインタビュー、現地調査、報告書作成、報告会の実施などを通して、実習先組織への提案を行った。


「受講生が実習に必死になって取り組む姿を見て、学びの効果は絶大だと感じた。受講生からは、様々な制約条件の中で答えや落としどころが見えない問題をチームで解決していく経験は帰任後大いに役立つという声を聞いた。実習先からは、自分たちも考えていなかった指摘をもらったという評価の声もいただいた。今年度も首都圏のJA2組織を対象に経営診断実習を行うが、より中身のある提案とするためにも、実習に入る前の、事前の仮説設定をより本質的で深いものにしていきたい」(上杉氏)。


~JAグループでは「国消国産」(国民が必要として消費する食料は、できるだけその国で生産する考え方)に取り組んでいる~

“修了生”679人、中枢部署で活躍中 木村政男・JA全中教育部長の話

「JA経営マスターコース」の累計受講生数は679人で、多くの修了生が企画・管理部門を中心にJAの中枢部署で活躍しており、近年では役員に就任する修了生も増えている。各JAで活躍している修了生が、改革の火種を灯し続けていることをうれしく思う。


25年間続いてきたのは、計画的な経営人材育成に理解あるJAがいたからであり、そうでなければ派遣は続かない。また、マスターコースの修了生の頑張りも大きい。修了生が現場で活躍することで、マスターコースの評価が上がり、「ああいう人になりたい」と手を挙げる人が出てくるという好循環が生まれている。


農業を取り巻く経営環境は大きく変化し、JAグループもビジネスモデルの変革が求められている。従来は事業ごとの連合会が示す事業モデルに沿って事業を展開していけば、JAの経営は成り立っていたが、農業者の所得向上、農業生産の拡大、地域の活性化を実現していくためには、現地に近いJAが自ら考え、提案して、現場発のビジネスモデルを考えなければならない時代になっている。


そこで教育部では、JAグループの中期経営計画に連動して、2022年度から3カ年計画で、JAの将来ビジョン・戦略の策定・実践を担う経営人材の育成強化を図っている。今年度は「オンラインJA経営者セミナー」を開催し、非常勤役員の農業経営者などが参加できるようにするなど、経営者層や管理職層の経営人材育成研修を増やし、幅広く経営者の育成を図っていきたい。

「経営診断実習」で得られたもの
経営診断の実習指導を行った小林俊介・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話

「JA経営マスターコース」の経営診断実習には、日本生産性本部「経営コンサルタント養成講座」のノウハウが盛り込まれている。


1958年に開設された「経営コンサルタント養成講座」では、経営全般におよぶ広範な知識、コンサルティングノウハウの習得を通じて、企業を診る目を養い、経営革新を支援、実現するための思考力、実行力を養成しているが、その最大の特徴は、実際の企業に約10日間滞在し経営診断を体験する「経営診断実習」だ。


実際に経営診断を経験することで、財務分析などの定量的な面だけでなく、キーパーソンへのインタビューや現場の確認による定性的な面も含めて、総合的にその組織を俯瞰するという養成講座の進め方が、「JA経営マスターコース」の目的や枠組みに合致したのではないかと考えている。


実習では、受講生は自分が知っている領域や自分が気になる点に焦点を当ててしまいがちになるので、事前に受講生に対しては、組織を客観的に見るように伝えた。


現地調査の段階では、インタビューを行ったが、一人に聞いた話だけで全体を判断してしまうことがないように指導した。一人の話はあくまでも一意見であって、その裏付けとなる記録や社内資料などから業務の実態を確認して、分析、判断するように指導した。


受講生はこれまでは、自組織の経営を俯瞰的に見る機会があまりなかったと思うが、実習を通して自組織の良さを再認識するとともに実習先の良さを吸収することで、自組織の改善案を考えるきっかけになったと思う。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

小林 俊介

東京農工大学工学部 卒業。 東京農工大学大学院技術経営研究科 修了。
自動車部品メーカーの生産技術部門において工程設計業務に従事した後、損害保険系コンサルティング会社および監査法人においてリスク管理、事業継続管理(BCM)、コンプライアンス体制の構築コンサルティングおよびセミナー講師を歴任。日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして活動している。
(1976年生)

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)